いもいもなにいも

おいものなんでもない日

雨とスマホと金木犀

 

スマホを新しくした。最新機種は大きすぎるし高すぎるので、もともと使っていたものと同じサイズの、それでも発売から一年のモデルだ。安い買い物ではないけれど、一人暮らしの生命線だし、気分はちょっといいし、よかったと思う。

今朝起きるまでは買い換える気はなかった。三年近く前に買ったスマホだけどまだバッテリーも普通だし……と思っていた。先月うっかり落として初めて割れた画面も1/3くらいだし、問題なかった。

昨日の大雨で端子が若干ダメになるまでは。

びしょ濡れになったわけではないけど、画面も割れてるし、ちゃんと見ると傷だらけだし、いずれ死に至る不調だな……と感じた。このままこのいつ充電できなくなるかわからない(すでに不安定)なスマホと生活していて事故にでもあったらことだ。私はそういうのを割と引き当てるのでシャレにならない。

一晩様子を見てやっぱり具合が悪かったので、起き抜けに「今日こいつとはおさらばだ」と決めたのである。

ふと、別れ話を持ちかける側ってこんな気持ちなのかなと思った。(そっち側に回ったこともあるけれど、あんまり昔のことだし忘れてしまった。) お前がいやになったわけじゃない、でもいずれいやになるのが分かったから終わらせるんだ。

スマホ相手だからこの身勝手が罪悪感なくまかり通る。

 

そして今しがた三年近く私を支えたiPhone6sを初期化して下取りのパッケージに入れた。これはどちらかというと、何かを淡々と殺すような気分だった。「リセット」をタップ。「iPhoneを消去」を2回タップ。消されたデータは今私が持っているこの新顔にそっくり移っているのだから惜しむことなどないのに、たしかに「奪っている」感覚があった。

これを仕事にしている人はそんな感想を持たないと思う、他人のスマホだし。いつも店頭でやってもらうときも、別になんとも思わなかった。だから不思議だった。さっきまで共に暮らしていた魔法の板が、他人行儀な傷だらけの機械になった。代わりに、さっきまでいらんプリインストールアプリがおびただしく入っていた新顔が、今私が殺したばかりの6sと同じ顔をしていた。

クラウド使ったバックアップってすごいや。

 

スマホの機種変ごときにここまで感傷的になるこたあないというのはわかっているが、なんかちょっと書き残しておきたいなーと思った次第でした。

 

 

・昨夜の冷たい雨の中、足早に茂みの前を通り過ぎたとき薫ってきた金木犀がエモすぎて倒れそうだった。そうだ私はここに金木犀の木が隠れているのを知っている。ここは私の青春の街なのだ。目がチカチカした。もうすぐ赤に変わりそうな信号をみとめて我にかえり、横断歩道の白いところを踏んで滑りそうになりながら渡った。

たった三年間のまぶしい日々が私の人生にものすごいコントラストをもたらすことがある。暗い影を落とすことも、ときどきはある。

今回はたぶん光。