いもいもなにいも

おいものなんでもない日

サスペンスドライブ

 

深夜に思い立って翌朝8時半に家を出て秩父ひとり旅を満喫していたら知らないおじさんに声をかけられて車に乗せられぐるっと観光した挙句駅まで送ってもらったでござるの巻。

自分で書いてて意味わかんないんですけど事実なので……私が言っても全く説得力がなくて恥ずかしいんですが、知らないおじさんにほいほいついていったりあまつさえ車に乗り込んだらダメですよ。今回はたまたまおじさん単発ガチャのSSR引いただけだからね。おじさん単発ガチャを引くな。

我ながらなぜ「えっいいの〜!」とか言って普通にお言葉に甘えたのかわからない。お金払って入るタイプの公園でちゃんと売店やってるおじさんだったのと、私自身の何かが完全にぶっ壊れていたからだと思う。

おじさんおじさんと書いていますがおじさん75歳ですからほぼおじいちゃんですね。10歳下の既婚女性と恋愛されているらしいが、手を握るのに一年かかったと嬉しそうに話していた(この件については個人的にアレルギー持ちなので勝手におじさん株が下がった)。あとめちゃくちゃかわいいかわいい言ってくれた。高齢者にウケのいいこけし顔でよかったな。ありがとうねおじさん………。

 

秩父神社とか道の駅とかをぐるっと歩き回ってから羊山公園へ行き、目当ての芝桜とみそポテトを堪能して、

(日帰り徒歩だと思ったよりやれることがねえ………)

と若干持て余しながら真っピンクの色がついたさくらサイダー(瓶入り)をぐびぐび飲んでいたところ、

「お嬢さんそれお酒!?」

と休憩所の売店のおじさんに遠くから声を掛けられたわけである。

 

オッ珍しく高齢者に初手で成人扱いされたな、と思いながら「違うー!サイダー!」と気まぐれにフランクな返答をしてみる。お嬢さん東京から?そうなんです西武線で二時間くらい、ハァー東京らしい顔してると思ったー、アハハどうもー!秩父神社は行った?ああ最初に行きました、それからあっち行ってこっち行って…、そんなに歩いたの!お嬢さんタフだねー!

旅先でよくあるやつである。ここまでは。

 

「みそポテト食べてかない?」

「あっさっき別のとこで食べちゃった…」

とはいえこんだけ会話してここの売店で何も買わないのも感じ悪いか、と思い「アイス食べたいな、バニラのやつあります?」「あるよー二百円ね!今持ってくるからね!」

小銭を用意して待っていると、やってきたおじさんの手元に市販のバニラモナカと一緒にみそポテトが一皿。

「なんかあるー!」「おいしいから食べ、もうおしまいだからこれあげるからね」

正直みそポテトめっちゃハマったので普通に嬉しかったしアイス挟んだおかげでぺろっといけてしまった。

ごみを下げに行くと、先ほどの言葉通り店じまいをすませつつあるおじさんが「お嬢さんいっぱい歩いて疲れてたらおじさんもう帰りだから駅まで送ったるよ!」

ここで本来は断るのがベストである。マジで。

トチ狂って「えっ……嬉しいー!甘えちゃっていいです?」とノってはいけない。

でもこのおじさんはSSRだったので、じゃあミューズパークちょっと車で流していくか!などと観光までさせてくれた。

トチ狂っていてもなけなしの常識が(最悪このまま殺されるだろうなー)と囁きかけてきたのでスマホだけは常に手に持っていたし、いもしない彼氏を捏造して「写真送りながら歩いてた」などと"連絡途絶えたら怪しいとわかるぞ"アピールもした(実際エリートに一人旅実況LINEはしていた)。

でも「あと…ダムでも寄ってくか!時間は大丈夫かい?」というお誘いには(死亡フラグが強すぎる)と思いながらも徒歩では到底見にいけなかったであろうダム見たさに取り憑かれて「見たい!ダム!あと30分くらいなら大丈夫です!」と尻尾振って答えてしまった。

無事に帰れる可能性がよくわからないならダムくらい見て死にたいなと思っていた。

捨て身になるタイミングがおかしい。

そんなことは知らないSSRおじさんは優しく、「お嬢さんお人形さんみたいだからな〜知らないおじさんに今日みたいに声かけられてもついていっちゃダメだよ」

「このエレベーター上ったらダムの上でるからね、おじさんは車で回っていくから…置いていったりしないから安心してね!」

と心から心配したり冗談を飛ばしてくれたりしたのだが、

まだこのおじさんが真にSSRでないことを疑っている私からすると最大級のフラグだった。

 

ダムはすごいよかった。花びらがぱらぱらと浮いていた。国土交通省発行のダムカードがほしくて事務局に立ち寄ったのだが薄暗い一階のフリースペースで弁護士の先生と他2名がなんかめちゃくちゃ神妙な顔で向かい合っていたのでそれ以上足を進めるのをやめた。

 

そこから駅に下っていくまでのあいだもおじさんはぽつぽつと話し続ける。山吹の茎の中の繊維が発泡スチロールみたいになっていることを私に教え、実際にそのへんに生えているのをみとめて車を停めて私に見せたりした。

ちなみに最初に車に乗り込む前、そばの池にサンショウウオの卵があるよとガッと手を突っ込んで採って見せてくれたりもした。

こういうところとか、道中の面白いところに回り道して得意げなところとか、父方の祖母っぽくてつい親しみを感じてしまったのはある。

 

その後も特に何ごとがあったわけではなく、順調に駅までたどり着き、別れた。

「今度来るときは旦那…あっ違うか、彼氏とおいでなー!」

「(その設定忘れてた)うん!おじさんのところ寄りますね!」

「寄らなくていいよ、おれ怒られちゃうからな…」

突然シュンとしてて笑ってしまった。一連のこれデートだったのか?親戚ムーブではなく?

またね!と手を振って、謎の満足感と徒労感に襲われたので予定よりだいぶ早く帰路についた。

 

ちょこちょこ現状をLINEしていた(ダムで「連絡途絶えたら殺されたと思って」と告げておいた)エリートにザッと顛末を話すと、「なぜ着いていったのか」「でもいいダム連れて行ってもらったね」と常識ストレートパンチと順応高すぎ(対私)フォローがきた。おじさんがSSRで本当に良かった。

 

今回の一人旅は予想だにしないことばっかりで無傷で帰れてすごかったけど、シンキングタイム無しで運命の扉にタックルかますのやめたい。

自分の安全を雑に扱いすぎていた。

 

待てよ、私おじさんに200円しか払ってないな………?