いもいもなにいも

おいものなんでもない日

針をみつめて

 

新しい職場にはなるべく毎日お弁当を持っていくぞと意気込んでいたが、はやくも挫折した。挫折というか、頓挫だ。コンビニの方が楽だし会社の近くに3つもコンビニがある、というのももちろん大きいが、悲しいことにいちばんの理由は、「コンビニおにぎりが口に合う」からである。

自分が詰めたお弁当も結局ほぼ冷凍食品や普段あまり作らないおかずで、けしてまずいわけではないが食べ慣れない。小2から鍵っ子だった私は、コンビニ飯がどんどん美味しく進化していくのに伴うように抵抗がなくなっていった。とどめに前職の労働環境である。最後の半年は、毎日2食はコンビニで済ませることがほとんどだった。逆にそのおかげでギリギリまで体調をもたせていられたように思える。あれで中食を自分に禁じていたら偏るか抜くかで即終了だ。今のコンビニ飯は、メニューさえちゃんと選べばそんなに体に悪くない。

ごはんを一膳分だめにした朝、最低の気分でコンビニへ寄り、お昼ごはん用におにぎりをふたつ買った。昼休み、どよんとしたままフィルムを剥がして一口かじる。

謎に安心してしまった。

"知っている"と思った。慣れないことや背伸びばかりの3月に、独特の塩味がやさしく思えた。悔しくて、ほっとした。なんだ、こっちの方が気が休まるならそれでいいじゃん。

 

というわけで、お弁当に詰められそうなおかずを作った日は持っていくがそれ以外は無理をしないことに決めた。別に会社を出てその辺で食べたっていい。まわりの先輩たちが数日おきにランチに誘ってくれるので、外に食べに出る人がけっこう多いのもわかった。そりゃそうか。一時間ばっちり、インカムで呼び出されることも内線で呼び出されることもないのだから。

昼休みが休み時間であるという認識がなかったようで我ながら笑ってしまう。奴隷すぎる。

 

つい気合いを入れていろいろ新しい習慣をつけようとしてしまったが、かえって時間が足りなくなってしまったので軌道修正をしていかなければ。この街にだって、引越してきてからまだ3週間だ。長い付き合いにするつもりの街と部屋なのにこんなに焦る必要はない。まあ、さすがにこんなに早く帰れるのは練習題をゴリゴリやっているだけの春先までだろうけど………。

 

実案件をやっているわけでも手伝える作業があるわけでもないのにじわっと残るのが嫌なので、定時+5分以内には上がるようにしている。この間まで部下を持っていた側からするとその方がお互い無駄な気を遣わなくてよいと思うからなのだが、実際どう思われてるかは知らない。まだ何もろくに頼めない子に残られても仕事を工面するのが手間じゃない?だったら帰れる日は早く帰って苦手意識なく明日も元気に来てねって思わない?

もう"幹部候補生"でも"新卒"でもないので余計な肩肘張らなくていい。くせになっていた体育会系優等生ムーブ(楽なのだ)のせいでヘンに期待されたりもしたくない。やたら注目されないってすごく息がしやすい。面倒ごとがいのいちばんに降ってこないというだけで、こんなにも身軽なものなのか。ずっとこの石の裏で生きていきたい。虫メンタルなので。

何より、この道の先にはちゃんとやりたいことがある。

 

チューニングするとき静かに耳をすませるように、背伸びしたりだらけたりして、ちょうどいいところをさぐっていく。そうしてぴったり音があったとき、気持ちいいのも知っている。