いもいもなにいも

おいものなんでもない日

ブリキの心臓

 

渋かわいい柄のどんぶりを注文した。届いたらまず何を作ってよそうか、今から楽しみでいる。

 

この毎日に自覚よりも参っていて、予想よりも平気でいるなと思う。

バランスを欠いているのには違いない。部屋で仕事をしながら、冷え切って震えが止まらない指先に気付いたりする。気を紛らわすために、つまり、自分はこの環境を楽しんでいるのだと思い込むために、とにかくたくさん紅茶を淹れて飲む。おそらく業務用とかその類の、バカみたいな量のティーバッグが一袋に入ってる商品を買ってからは、罪悪感がなくていい。落ち着かない鼓動を、いっしょに飲み下す。息をつく。言語がごちゃ混ぜに騒いでいる頭の中が少し秩序を取り戻す。作業に戻る。……の、繰り返しだ。あとは、机との間に抱えたぬいぐるみを揉んだりしている。

とにかく、落ち着かない。頭の中が。

今していることが最善なのも、ひとまず打撃といえるものはないことも、上記全てが文字通りの気休めなのも、わかっている。

けっこう早く音をあげたなあ、と思ったが、そういえば数日おきのゴミ捨て以外に今月外出したのは2度だった。ひとつはリモート開始前最後の出社日で、もうひとつは10日ほど前の散歩。安全と引き換えとはいえ、そりゃあ気も滅入るか。

冬の終わりに引っ越してきた街は、よくいえば活気のある街なので、商店街が常にそこそこ人手があるわ最寄りのスーパーは駐輪場からして地獄だわ休日は裏通りもまあまあ人が歩いているわで、今の状況からすると出歩くのにリスキーなんだよな。真夜中とかはそりゃあ人もいないだろうが、今度は治安に心配がある(どこにでも、それこそ隣家にもわるいやつはいたりする)。

いくらなんでも気にしすぎと思うでしょう。風邪で点滴打たれる25歳なので勘弁してください。さすがに散歩の頻度を増やさねばとは思うけど……。

 

ひさびさの友人たちと話をしてひさびさに心がすこしほぐれたところで、夕食後に『違国日記』を読み返した。ドラマチックなストーリーは微塵もない漫画だけれど、ここ数年わたしのナンバーワンの作品だ。

4巻あたりからぼろぼろのぐちゃぐちゃに泣いて、少しスッキリした。私は槙生や、笠町くんである。朝や、えみりや、槙生の友人たちでもあるけれど、冒頭の2人がいちばん迫る。読んだらわかると思うし読んでない人に説明するのも恥ずかしいのでここでは語らないけれど。

"チューニングされない感情"をキャラクターそのものへ投影できると、意地や虚勢の邪魔なく涙を流すこともできる。物語は私を救う。マントを翻す勇者としてではなく、言葉なく寄り添う不器用な友人として。

スマートフォンの中の騒がしい現実で窒息しかけても、本棚いっぱいの物語が、この部屋にはある。

 

それだけなんだけど、そうであるなあと思った。