いもいもなにいも

おいものなんでもない日

獏の職域

膝上丈の制服のスカートを翻して校内を走る夢を見た。先生が教室へ来るまでに"何か"をとってくるためにひどく急いでいるようだった。駆け抜ける校内は文化祭のような催しの準備中なのか、廊下にたくさん生徒がいて、床にいろんなものが広がっていて、走る私にその中のいろんな人が声をかけた。たぶん友達とか、後輩とか、先輩とか。がんばれとか、なにしてるのとか、ただ名前を呼ばれたりとか、そういう声だった。ようやく教室へ戻った頃にはもう先生は到着していたが、特に何も言われなかった。私は私のとってきたものが取るに足らないもので、こんなに焦って探してくる必要もなかったなということに気付いて、急に落ち込んでいた。私がとってきた何かを見て、友達のような誰かが、私の気持ちをよそにそれを褒めた。それで少し安心した。……ところで、目が覚めた。久しぶりに、悪夢とは言えない夢だった。27歳で女子高生になる夢を見るのが健全かどうかはともかく。

実際の私の高校は制服がなく(イーストボーイのなんちゃって制服をさらにいろいろ別の服と組み合わせて着たり、普通に好きでヤバい服を着たりしていた)。校内用のサンダルがあり、いつもそれを履いていたので、あんなふうに走るときは階段とかですぐ脱げたなあと懐かしいことも思い出した。「スカートを翻して校内を走る」こと自体は、当時の私もよくやっていた。途中、すれ違う友人やその他の人たちに声をかけられて返事をしながら通り過ぎていくことも。なんだかなにかと忙しない、でも気にかけてくれる人の多い学校生活だったのだ。生徒会執行部の役員だった癖にしょっちゅう放課後の廊下を爆走していた件については許してほしい。当時もなんとか黙認されていたので。

今はあんまり高校時代を想起するものに触れたくないんだけどなあと思いながら、寝る前に見ていた推しの1人の動画(ときメモGS2実況:https://youtube.com/playlist?list=PLilypEVBBl1UqLVrTjeFgKC79FgaFkdza)が原因だろうと気付いて、ひとまずよしとした。私の深層心理は関係ないということにできるから。まあ、動画の中で女子高生が爆走するシーンなどはありませんが……。ちょっと年代が古いものの、青春ラブコメとして妙なリアリティが入り混じっていて、見ていて時々なんとも言えない気持ちになる。ラブコメ展開を夢に見なかっただけ救いだった。

私にとっての青春を象徴するもののひとつが、「放課後の廊下を駆け抜けながら友達と声を交わすこと」だったんだと思う。あの頃はとにかく、時間が惜しくて、なんでもやりたくて、楽しくて、すべてが凍りつく家に帰るのが嫌で、それだけだったけど。

冬のもう暗い廊下、生徒会室の前に集まる馴染みのある友達の顔ぶれの向こうに、話したこともないその人はいた。

すっかり忘れていた記憶まで引っ張り出されてしまって、しばらく強がっていた気持ちが降参した。すぐに元気にはなれません。もうしばらくかかります。そうだよねえ。

 

何か新しいことを、新しい人を、生活に取り入れねばならないと焦っていたが、旅行しようにも友達と会いまくろうにも社会の状況がまたそれを許さなくなってしまって、身動きが取れない。だからまだ慌てて走り出さなくてもいいということにしよう。

 

弱音を吐こうと思って友達と会ったり電話してみても、なんだかうまくできずにヘンに茶化してしまったり元気に見せてしまったり、結局相手の悩みをメインに聞いてしまったりする癖は、あの頃とあんまり変わっていないどころかひどくなっている。大人だからそれが正しいのかもしれないけれど。こんな私の友達なんだから、液体みたいになっててもいまさら幻滅してどこかに行ったりはしないのにね。

大丈夫です、と脊髄反射で返すのをやめる。これが今年の目標です。