いもいもなにいも

おいものなんでもない日

なかゆびの朝焼け

・「職場に出会いはないの?」と訊かれることが、また、増えた。残念なことに、みなさんの想像の100倍静まり返った部署で、雑談発生率めちゃ低の部署かつ、女性比率の多い部署なのであった。しかも、私が入社したとほぼ同時に月替わりランダムシフト制週2在宅(緊急事態宣言とかのときはフル在宅)が開始したため、会わない人とは本当に、うっかり半年会わない。ミーティングでたまに声だけ聞こえるくらい。それも、顔の下半分は見たことがなかったりする。(そもそも、働く場所が同じひとと恋愛関係になるのがなんとなくいやだ。なったことはないけど。) 職場としては最高なのだが、まあ、出会いの場ではない。当たり前だ。職場では仕事をしろ。

"好きな人"なんて、探そうと思う前に勝手に踏切の向こうにあらわれるものだろう。そこを渡るか渡らないかを悩むならまだしも。という感覚で生きてきたので、便利なアプリまであるのにのんびりと何をしているの?とか、恋愛そのものが嫌いなわけではないでしょう?とか焚きつけようとされたり、最悪のときは、セクシュアリティを探られたりすると、謂れなく責められているようで、もっと嫌になる。

たしかに、恋は素晴らしいものである。愛はかけがえのないものである。フィクションでも現実でも。しかし。私にとっては、少なくとも、暇つぶしや、見栄や、他人の酒の肴にするために得るものではない。

多様性に寛容になりはじめてきたとされている世界のいっぽうで、体と心の性が一致していて、恋愛対象が異性で、まるきり恋人がいたことがないということもなく、特殊な癖がない人間ならば何をどれだけ追い立ててもよいと思われているっぽい。さらに、恋愛と結婚(さらに、出産まで!)を一本道に繋げられるともうめちゃめちゃな気持ちになる。私が育まれたじゃがいも畑では、それとこれとは別のお話だったんだよな……。

卑屈になるのも違うからと自分から少し動こうと思っても、そういう善意の人に遭遇するのもめんどうで、私の殻はどんどん閉じてゆく。このまま真珠の核になってしまいたい。何百年も後に、巨大な真珠の標本として、華々しく世界の博物展を巡るのだ。先に中身がミイラだとばれて、ホラーないわくがついたっていい。私の真実は、ひからびても砕けても私だけのもの。

 

・ずっと欲しかった、自分のための、なんの記念でもない指輪を買った。(ひとりでは勇気が少し足りなかったので、友達に見届けてもらった。)

誕生石でもなんでもない、小さな小さなオパール。青みがかったミルク色にゆらりと彩雲のような遊色が、宝石の意地を主張してくる。

買ってから、「オパールは魔除けとかの力が強すぎるから独身女は買うな、男も遠ざけるぞ」みたいな30年くらい前に流行っていたっぽいクソ戒めを知ったが、またかよ……という気持ちと、それオーストラリアやエチオピアの人たちにも言えんの?という気持ちがまぜこぜになって、そんなのもばからしく、かえって気に入った。なんでもかんでも厄介なものを吸いつけてしまうから、穏やかに暮らすならむしろそのくらいがちょうどいいだろうよ。むかし接客中にSP付きのガチ石油王っぽい人に挨拶がわりに口説かれたのとかは面白かったけど……。これは酒の肴にしていいお話です。

美しき用心棒は、アルコールにはよわいらしい。手指消毒の際は石だけ避けてあげてくださいね、と百貨店のおねえさんに言われた。消毒に強い!とかがジュエリーのセールスポイントになる時代がもうすぐそこまできているのかもしれない。

大切にするよ。きっとおばあちゃんになっても。

でもさっきコンビニでうっかり消毒ジェルかけそうになってごめんね。