いもいもなにいも

おいものなんでもない日

わたしの牡鹿

あしたはとある施設の近隣住民向け内覧会(一住所につき1人+付き添い1名で祖母にご指名いただいた)(それがあること自体は周知であるものの正式オープンまでは具体的な情報を出すべきでなかろうと一応伏せていますが、普段の言動を見てくれている方にはバレバレでしょう、そんな方がいればの話ですが)なのですが、なにせ先週急に言われ……というのも自治体から祖母宅に案内が来たの自体が10日前なので、そこから祖母が母に「(私)が好きだったわよね?」と連絡、母から私に即電で「一族の中でいちばんこれのオタクなのはあんただろうからって(意訳)」予定が空いているか確認(母から突然電話がくると大抵家族の誰かが倒れているのでかなり身構えた)、美容院の予約をとりそびれたのと最近冴えてなさすぎて他の予定を入れる気力もなかったせいでノープランだった私は「行きます」と即答、そして前夜の今、という流れで、平日も相変わらず仕事がしっちゃかめっちゃかな中、4作目までは最近ちょうど見返せていた映画の残りの4作を湯船やベッドや休憩室で大急ぎで復習したというわけであるのでした。さらに今日、昨年あたりに公開されたばかりの周年記念番組まで履修して万全の体制を整えました。貪欲。

ずっとファンだったし原作は3〜最終作まで発売日に買って、小学生の頃なんかクラスのお受験組イキリ男子に発売翌日「お前何章まで読んだ!?…負けた…!」などと謎の不毛な戦いをけしかけられオートで勝利したりしていて(こいつは塾通いかつ消灯時間を決められている教育重点家庭の子供だったので、習い事は小5から週1のECCしかやっていない荒れ気味家庭の私と根本から可処分時間が違ったはずだ、かわいそうに)、近年はこの作品のオタクを自称していたものの、実は最後のほうの映画は未視聴だったことがずっと気がかりだったのでいいきっかけになった。気がかりだったのになんで観ないの?映像で観るグロシーンが苦手なんですよ。漫画とか小説は先のページまで急いで読めばいいし最悪は前後の描写で汲み取れるけど、映像は逃げられないし基本映像でしか描写されないから。

ただ、まあ、公開当時に観なかったのは別の理由がある。それぞれ公開年のあたりに私の家庭がどうだったか知っている人にはなんとなくわかるだろう。まだ幼かった。1人で観ちゃえとまで振り切れはしなかった。まだ穏やかだった頃(姉はもう荒れ始めていたが)、少なくとも両親とは、一緒に映画館に行って観る数少ない作品だったのだ。それを1人で観に行って、自分から突き離すみたいなことをするのはなんだか違う気がした。そんなナイーブな人々ではなかったので、本当に余計な気遣いだったのだろうけれど。……いやわからない、あの頃の我が家は全員終わっていたので、実際そんなことをしたら、ほかの些細なことでそうされたように、当てつけだ薄情だ可愛げがないと手酷く詰られたかもしれない。(完全な自室のない私が彼らの怒声罵声を聞きたくなくて毎日ヘッドホンをして過ごしていたらある日当時はいちばん穏やかだと思っていた父親に「あてつけているのか」「拒絶されているようだ」と怒鳴られたことがある。後半は当たっているのだが、まあ、それでも大人が13や14のこどもに投げつけるべき言葉ではない)

さておき。そういう暗く忌々しい記憶は老いた彼らの中ではだいぶ薄れているので、無邪気に「娘が特に好きなもの」として認識してこういう話を回してくれたのはありがたい。本当に。好きなものは好きだと、うるさいくらい周りに言っておくのがいい。私がもし、本心にかかわらず、「もうそんなのあんまり好きじゃない」という態度でいたなら、この話自体知らされなかったかもしれない。好きだ、大事だと表明していないものは、いつ離れて行ってもおかしくないし、離れて行ったことにも気付かない。気づかなければ、ダメージもないのだろうが。でもやっぱり、天使が前髪を向けてくれるチャンスは多い方がいい。掴む勢いだけなら誰にも負けない。

私が好きだと言い続けているから、ふと見かけた時、手に入れた時に私を思い出したり私に知らせようと思うものがあるひとよ、ありがとう。これは私にも杖なしで使える、数少ない魔法なのだった。

相手がわずかにでも私を愛していなければ、効かない魔法だ。