いもいもなにいも

おいものなんでもない日

スポットライト

「社会人5年目までの社員」とかいうザックリしすぎ基準で数に入れられ、外部の人材系企業所属の講師を招いた"キャリア研修"とやらに参加した。金曜一日と土曜半日以上を潰して。この会社に入ってはじめての休日出勤であった。前の職場なら「ハイハイまたですね…」と文句垂れつつまあ素直に参加していた。あれは学習性無気力とかいうやつだったのだろう。いや、辞めますと言った後に参加させられた研修は、事後アンケートに"進退に悩む時期はそれぞれであり、その場合も自分で選んだ信頼できる人間や媒体から得た言葉でなければ響かない。繁忙期の今、主力社員となっている総合職の若手を売場から出してまで行う研修かは疑問であり、かえって不信感を強める。"とボロクソに書いたが……。大人気ないね。いいんだよお互い様だから。

強制参加だし、前職で休日に展示会連れてかれたりしたのと違ってお給料は出るし、仕事なので表面上は真面目に参加した。

やったことある適性テストみたいなやつを事前に受けた時点で予想がついたが、全部聞いたことのある内容だった。そりゃそうだろう、前職の総合職向け研修と同じ会社の講師が来ているのだから。

さらに、今回はその時とは違い、転職後の現状に満足しており、このまま邁進するしかないと自認している。ていうか、こういうこと全部自分でやった上でここにいる。

あまりにも無為な時間。こういうことに最もストレスを感じるタイプなので、どんどん荒れていく自分の精神状態を自覚していたが、参加者に罪はないし……と思い、真面目に参加して「勉強になる!」「考えなくちゃと思いました…」と素直に言っている人たちの邪魔はしないようにするかねと、社交スイッチを入れた。

接客業だった前職と比べるのは酷かとも思うが、いい大人がこんなにもモジモジするもんかね、というくらいみんなモジモジしていた。まるで子羊の群れだ。私はもしかすると、こんなにも忌み嫌っているキャリア講師の素質があるのかもしれない。この人たちにひとまずこの場で好かれるのは、造作もないことだと思う。柔らかい雰囲気で安心させて、だんだんフランクに、かつサクサクと場を回して、名前を読んだり相槌を打ち、あなたを認識して尊重していますよと示せばよい。あとは、発言内容もまあ論拠のあるように聞こえるものであれば、うさんくささも紛れよう。中身のあることなどほとんど言っていないのに、彼らはきっと気付かない。

みるみる表情がほぐれてゆく同じグループの女の子たちを見て、昏い達成感があった。詐欺師やインチキ占い師になるのはやめておこうと思った。(私は占いそのものは大好きです、念の為)

こういうムーブが、講師や、こういうのを主催して「毎年この研修で顔つきの変わる社員を見るのが楽しみなんですよ」とか言ってる人事社員にあまり好まれない(彼女らは「子羊を救済して感謝される」のがよろこびなので、"異物"が獲物を横取りするのをよしとしない)のもわかっているので、彼女らがメインで回している場ではニコニコと黙っている。あまりにもシンとして誰も発言しない時だけ、おずおずと(見えるように)話し出す。出る杭の自衛。

たった数十分話しただけで私のことを好きだと、面白いと、明るいと言ってくれてすべて任せようとする人たちのことをありがたいとも思うし、どうしようもなく腹立たしくも思う。

そうなるとわかってそう動いているのは自分なのに、どうしてこんなに苛立つのだろう。

この苛立ちはローティーンの頃に覚えがある。つまり、私はそれから成長できていないということだ。これを武器だと開き直って生きることまではできたが、「その場にいる人間が自分を見て一斉に安心する」瞬間に、よろこびでなく寒気を感じるのは変わらない。1時間も言葉を交わしていない人間に、そんなにあっさりと腹を見せるなよ。こういう人たちを相手にモノを売っていた人間が抱いていい感情ではないのはわかっているが。

生まれつきこうなので、彼らの気持ちはわからない。心の中では全員私のような人間を嫌っているかもしれない。だが、黙ってりゃ全部過ぎ去ると思って20年以上生きてこれたような人たちに何を思われようがどうでもいい。そのまま優しい誰かが、わかりやすいきっかけが、運命の相手や仕事が、現れるのを待ち続けて生きていくといい。彼らにはきっと現れるのだろう。信じるものは救われるのだ。

 

自分でも何をこんなに嫌がっているのかわからない。とにかく怒りが湧いて仕方なかった。こういう人たちの不安を煽って、「もっと能動的に会社に貢献します!」と言うよう誘導するのが目的のこの手の研修も、自分で考えて自分の意志でそう言ったと思い込んでいる人々も、不気味で仕方ない。

ああ本当に、みんな顔つきが変わっている。

怖い話を延々と聞かされた後みたいな気持ちでミーティングを退出した。

 

昼食なしで14時まで拘束されていたのですっかり空腹だった。食事をして、体中に怒りが満ちているのを感じながら、布団に潜り込んで何時間か眠った。ろくな夢を見なかった。

 

私だって、ニコニコ黙っているだけですべてがおさまる世界がよかったよ。

 

ひさびさに書いたと思ったらド愚痴でウケる。普段の仕事は大きな不満もなく、ハッピーエンド後の世界みたいな穏やかさで過ぎ去っていきます。これでいいんだよ。